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大分地方裁判所 昭和24年(行)26号 判決 1951年5月31日

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十四年三月二十五日なした大分市大字駄原字中原六百二十三番地の一田三反二畝十五歩の農地買収計画は取消すべきでないとの裁決はこれを取消す。大分市大字駄原字中原六二三の一田三反二畝十五歩にかかる農地買収計画はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として「大分市駄原字中原六二三の一田三反二畝十五歩は原告の所有であるが、訴外大分市府内農地委員会は超過小作地であるとして自作農創設特別措置法第六条第四項にもとずいて買収計画を樹立したので原告は適法に同委員会に異議申立をしたが却下された。そこで更に被告に対し適法に訴願したところ被告は昭和二十四年三月二十五日本件農地は超過小作地で自作農創設特別措置法第六条第四項にあたるという理由で買収計画から除外すべきでないとの裁決をなし、右裁決書は昭和二十四年四月十八日原告に送達された。併し本件農地は小作地ではないので、ここに法定期間内に右裁決の取消並に本件農地を右買収計画から除外することを求めるため本訴に及んだ。」とのべた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」旨の判決を求め、答弁として「原告主張の請求原因のうち本件農地に対して原告主張のような買収計画、異議、訴願裁決のあつたこと並に裁決書送達の日が原告主張の通りであることは認めるが、その他は否認する。本件農地は大正六年頃原告において訴外植木藤平に小作させ、以来転転として数小作人が変つたが、昭和二十年十一月から同二十一年六月まで訴外木本謙一が同年同月以降は訴外友永新一が小作して現在に至つて居り、この間原告は全く自作したことがない。従つてこれを小作地と認め、原告の小作地保有面積を超えるものとしてたてた買収計画も、また右買収計画を取消すべきでないとした裁決も適法であつて、原告の本訴請求は失当である。」とのべた。

(立証省略)

理由

成立に争のない甲第一、三号証によれば本件農地は原告の所有であつたことが認められ、右農地につき原告主張のような買収計画異議、訴願並に裁決のあつたこと並に右裁決書が原告に送達せられた日時が原告主張の通りであることはいずれも当事者間に争ないところである。

而して原告は本件農地は小作地でないと主張するので以下この点につき判断する。

証人木本謙一の証言の一部、同友永新一、同甲斐正夫の各証言並に原告植木善雄本人の供述を綜合すれば本件農地は原告において昭和十九年中から朝鮮人訴外金某に賃貸耕作させていたが、同訴外人は帰国することとなり、昭和二十年十月十五日本件農地を原告に返還すべきことを申入れ、その約一週間後稲の収納をすませた上で現実に右農地を原告に引渡したこと、然るに同年十一月中麦植付前原告はその遠縁にあたる訴外木本謙一に対し本件農地を期間の定なく賃貸し、同訴外人は直ちに麦を植付け翌二十一年その収納をしたが、同年六月頃原告には無断でこれを訴外友永新一に転貸したこと而して同訴外人はとりあえず本件農地の稲の植付をすませた後原告に面会したところ原告は同訴外人の耕作することを承諾した上小作料は一応十俵分とし、なおそのほか二俵についてはゆつくり相談をしようと答えたので同訴外人は以後引続き今日まで本件農地を耕作していること並にその後同訴外人は昭和二十一年度小作料十二俵分金三百六十円を昭和二十二年一月頃原告方に持参して支払い、原告の妻から即時領収証を受取つたが、翌日原告から計算違いを理由として右金員を返還せられたことを夫々認めるに足りる。

そこで先ず本件農地が訴外金某から原告に返還され次いで訴外木本謙一に賃貸されることによりその小作地たる性質が一時失われたものであるか否かを考えるに原告植木善雄本人は右返還当時原告において訴外金某と稲収納を共同にし且引続き行うべき麦播付の準備もした旨供述するけれども右供述は前顕証人木本謙一、友永新一、甲斐正夫の各証言と対照して当裁判所のにわかに信用し得ないところであり、他に原告が本件農地を自己の耕作業務の用に供したことを認めるに足りる証拠はないから本件農地は稲収納後訴外金某から原告に返還され次いでこれに接着する麦播付期前訴外木本謙一に賃貸されるまでの間多少の時間的間隔があつても、引続き自作農創設特別措置法第二条第二項にいわゆる小作地たる性質を保有したものと解するのが相当である。

次に前顕甲第二、三号証の記載の各一部を綜合すると原告と訴外木本謙一は昭和二十二年一月十日右両名間の賃貸借契約を合意解除する趣旨の意思表示をしたことが認められるけれども、原告はそれ以前訴外木本謙一から訴外友永新一に対する転貸借を承認したこと前認定の事実により明かであるから、右承認の結果前記転貸借は既に適法な賃貸借となつたものであつて、他に特別の主張も立証もない本件ではその後行われた前記賃貸借の合意解除のみによつては何等の影響を受けないものとしなければならない。(昭和九年三月七日言渡大審院判決、大審院判例集十三巻第四号二百七十八頁参照)

然らば本件農地は昭和十九年以降本件買収計画樹立まで引続き小作地であつたと認められるのみならずこれが原告に許された小作地保有面積を超過するものであることは原告の明かに争わないところであるから、本件買収計画並に被告のなした前示裁決には何等違法の点はない。

よつて原告の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。(昭和二六年五月三一日大分地方裁判所民事部)

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